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この本『そのブログ!「法律違反」です』が「法律違反」です

そのブログ! 「法律違反」です (ソフトバンク新書)

そのブログ! 「法律違反」です (ソフトバンク新書)

江戸川区立葛西図書館での特集コーナーで新書を特集していて、その中にあった一冊。自分のブログで知的財産権で法律違反がないかチェックするのに使ってみようと手にした本。これになんと法律違反と思われる記載があった(笑)

『そのブログ!「法律違反」です−知らなかったではすまない知的財産権のルール』の引用

本書では以下のような引用がされている。

米国IT業界のオピニオンリーダーの一人で、「ウェブ2.0」という言葉の生みの親でもあるティム・オライリー氏は、ゲーム内通貨の換金について次のように答えています。
「(ゲーム内通貨の)換金は絶対に(現実)経済に組み込まれるべきだ。たとえ禁止したところで、人々はイーベイを使って売買するだろう。つまり制御できないのだ。それはまた,国家的なトレンドでもある。金融市場をはじめ、我々の経済活動は益々仮想化している。なぜゲームの仮想世界で作り出された事物だけが、それと違うということになるのか。確かに危険性はあるが、それは何でもそうだ。われわれはゲーム経済を排除するよりも、むしろ、それを適切に機能させる仕組みを検討したほうがいい」(「ITProによるインタビューより」)

著作権法として問題がありそうなのは以下の点。

  1. 出だしの「(ゲーム内通貨の)換金」が引用元では「RMT」である。
  2. 「イーベイ」が引用元では「eBay」である。
  3. 読点の「、」が引用元では「,」である。
  4. 「我々」「われわれ」と表記が分かれているが、引用元では2箇所共「我々」である。
  5. 出典が「ITProによるインタビューより」となっている。

1から4は表現を変えただけで表記を書籍内のものに統一しただけのように見える。しかしながら、本書の別の箇所では、Q&A形式の答えとして以下と述べ、根拠として判例を示している。

☆著作者には、その意に反して著作物の改変を受けない権利がある。
☆読点の切除といった細かい点でも許されない場合がある。

上記で言う著作物の改変を受けない権利が同一性保持権という説明があり、次のQ&Aの答えでは以下の記述もある。

☆誤植の訂正も同一性保持権を侵害する場合がある。

何れも「場合がある」と書いてあるが、どういった場合なのかが具体的に書いてなく本文を読むだけでは必ず侵害するように読み取れる。

これらの1から4も問題なのだが、一番の問題は5である。本書では著作権法第三十二条

公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

を示して引用について述べている。

しかしながら、引用については著作権法では加えて第四十八条で

次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。

と出所を明示することも求められている。出所として本書の記述の「ITProによるインタビューより」だけでは不十分で、記事名とURLが必要だと思われる。しかし、本書の本文にはそれらが見当たらず、巻末にも引用元が明記されていない。著者の一人前岨博氏は弁護士であり、まさか著作権法の第三十二条は知っていて第四十八条を知らないということはないと思うが、著作権法の第四十八条を説明しないのは「知らなかったではすまない」と副題で宣言する割にはいかにも不十分な記述である。

つまり、細かい改変も含めて引用に関して明確な法律違反なのである…って、なんだよこれ(笑)

正しい引用

著作権法判例を踏まえて法律違反とならない正しい引用文としては以下のようになる。

――仮想世界に危険性はないだろうか?たとえば(仮想通貨を現実通貨と交換する)RMT(Real Money Trading)は,米国ではOKのようだが,日本のゲーム・メーカーは禁止している。あなたははどちらを支持するか?

 RMTは絶対に(現実)経済に組み込まれるべきだ。たとえ禁止したところで,人々はeBayを使って売買するだろう。つまり制御できないのだ。それはまた,国家的なトレンドでもある。金融市場をはじめ,我々の経済活動は益々仮想化している。なぜゲームの仮想世界で作り出された事物だけが,それと違うということになるのか。確かに危険性はあるが,それは何でもそうだ。我々はゲーム経済を排除するよりも,むしろ,それを適切に機能させる仕組みを検討したほうがいい。

引用元:ITpro『ティム・オライリー氏への最新独占インタビュー,「Second Life」「RMT」を語る』
    http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/USNEWS/20061214/256942/

ここではRMTの説明も入れるために質問も引用すると、衍字(えんじ)もそのまま引用しなければならない。衍字とはここでの「あなたはは」のように字が余計に入ってることで脱字の反対語である。知ってました?

本書のイケてない点

引用に対する法律違反は目をつぶって、目的であったブログに知的財産権で法律違反がないかチェックできるかというとこれもできないのである。理由は三つある。一つ目の理由としてブログ以外のQ&Aが多いのだ。新書のタイトルとして一部を取り上げてキャッチーなものとすることはよくあるのでいいとしても、Q&A形式の第一章から第四章のうち第一章の「あなたのブログは大丈夫?」にもブログに対するもの以外も含まれていて、中身を読んでみないとブログに関するものか分からないのである。

使えない二つ目の理由として法律違反かどうかが分かりにくい。第三章の冒頭に

第三章および第四章では、会社・社会で直面する事例を参考に、コンサルタント的視点から知的財産権を説明し、○(正しい判断・理解)、×(誤った判断・理解)、△(ケースバイケース)の判定をします。

とあるが、これはQ&Aの質問の仕方にも拠る判定である。そもそもこの○×△の記号の説明が第一章や第二章の冒頭には抜けていて、頭から読むと、記号が何を示しているのかが分かりづらい。本書の冒頭で記号の説明をし、法律違反かどうかが本書の中心的な論点と考えて「○(法律に違反しない)、×(法律に違反する)、△(ケースバイケース)」の判定をするべきなのである。

使えない三つ目の理由として2008年2月の出版で内容が古く、例えば、セカンドライフを繰り返し取り上げていたりするのである。セカンドライフは日本においては流行ったとも言えない。出版が古いため、最近の事例にも対応できていない。

今日のオススメ本

本書が改訂されて、著作権法違反部分とイケてない点が修正されたならオススメなのだが、そうはなっていないこともあり、オススメはこれ。

以前のブログで書評書いてないかなと探したら、一冊の本だけ取り上げた書評はどうやらこれだけだったみたい。ブログの文体が今とは違って恥ずかしくもあるけれども(笑)、読んでみたいなあと思った。書評もたまには書こう。